米連邦準備制度が政策金利に関する決定を下す際は、政治的思惑は抜きにし、経済にとって何が最善であるかにのみ焦点を絞ることになっている。しかし筆者は、米金融当局がこの独立性から外れつつあるのではないかと思い始めている。そして、それがインフレにどう影響するかを懸念している。
直近の米連邦公開市場委員会(FOMC)で金融当局者は政策金利をゼロ近辺で維持することを決定し、今後半年から1年の間に大幅な利上げ(もしくは利上げ自体)は計画していないと示唆した。インフレ率が金融当局の長期的目標である2%を大きく上回っていることを踏まえれば、この金融緩和へのコミットメントはいささか驚くべきことだ。9月の個人消費支出(PCE)総合価格指数は前年同月比4.4%上昇と、過去30年で最も高い伸びとなった。価格変動の大きい食品とエネルギーを除いたPCEコア価格指数でも、30年来の高い伸びだった。これらのデータが示唆するのは、米国が1970年代に経験したような持続的なインフレ心理に戻るリスクが決して小さくはないことだ。当時はインフレ抑制のために極端な金融引き締め策が必要だった。
高インフレは主として供給の目詰まりが原因だとの米金融当局の分析には、筆者も賛同する。需要を満たすのに十分な自動車の生産を半導体不足が阻害しているとすれば、価格はおのずと上昇する。だからと言って、金融当局に価格上昇を抑える力がない訳ではない。経済学者は得てしてインフレは需要超過の結果だと考えがちだ。パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長が強調したように、確かに金融当局は供給に影響を与えることはできない。しかし、金利を上げることで過剰な需要を抑えることは可能だ。
それなのになぜ、金融当局はこれほどまでに行動をためらうのか。1つの可能性としてあるのは、雇用の最大化というもう1つの責務を果たすために高インフレを容認しているというものだ。しかし、失業率が4.8%(訳注:原文執筆後に発表された10月雇用統計では4.6%)と歴史的低水準にある中、この説明は説得力に欠ける。
雇用が問題ではないとすれば、他に何があるのか。可能性として考えられるのが政治だ。バイデン政権は来年2月に任期が切れるパウエル議長を再任するかどうか、まだ明らかにしていない。もしパウエル氏が再任を望むなら、緩和的な金融政策を維持することで政権や左派の顔色をうかがうのが自然かもしれない。筆者は当然、そうでないことを願っている。意識的はどうかはともかく、それは金融政策の政治化と同じような事態を意味する。つまり、多くの経済学者が70年代の悪性インフレを引き起こした要因と考える状態だ。あの経験は誰も繰り返したくないはずだ。
(2009-15年に米ミネアポリス連銀総裁を務めたナラヤナ・コチャラコタ氏は、ブルームバーグ・ビューのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしもブルームバーグ・エル・ピー編集部の意見を反映するものではありません)
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