蕁麻疹(じんましん)の治療には抗ヒスタミン薬の飲み薬などが使われます。蕁麻疹に対して処方される薬の例を紹介します。
蕁麻疹に対して処方される治療薬の例として、以下のような抗ヒスタミン薬の飲み薬があります。
それぞれの特徴を説明します。
フェキソフェナジン塩酸塩は主にアレグラ®の商品名で使われています。市販薬のアレグラ®FXにも含まれている成分です。第2世代の抗ヒスタミン薬に分類されます。
副作用の眠気が現れにくいのが特徴です。実際に医療用医薬品としての製剤は航空機乗務員を想定した試験などで作業能率に影響を与えにくいという結果もあります。
フェキソフェナジン塩酸塩に加えて血管を収縮させる塩酸プソイドエフェドリンを配合した、ディレグラ®という薬もあります。
エピナスチン塩酸塩は第2世代抗ヒスタミン薬に分類される薬です。商品名にアレジオン®などがあります。抗ヒスタミン薬の中で比較的眠気などが現れにくい薬です。また薬の効果に持続性があり「1日1回服用」が可能な薬として、市販薬のアレジオン®20にも含まれている成分です。
エピナスチン塩酸塩は抗ヒスタミン作用のほかにも、ロイコトリエンなどに作用します。ロイコトリエンはアレルギー反応に関わる体内物質です。これらの作用によって、さまざまな病気に効果を発揮します。
オロパタジン塩酸塩は一般的に第2世代の抗ヒスタミン薬に分類されます。アレルギー性疾患に高い効果が期待できる薬です。主な商品名であるアレロック®は「アレルギー症状のブロック」に由来します。
オロパタジン塩酸塩は、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、皮膚掻痒症などに使われます。ヒスタミンへの作用のほかに、ロイコトリエンへの作用などが確認されています。多方向からアレルギーを抑えることが期待できます。
副作用の眠気には特に注意が必要です。薬の説明書の役割を持つ添付文書には「本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事させないよう十分注意すること」と記載されています。
ベポスタチンベシル酸塩は、第2世代抗ヒスタミン薬に分類される薬です。商品名にタリオン®などがあります。
ベポスタチンベシル酸塩は抗ヒスタミン作用に加え、PAFやIL-5という体内物質の働きを抑える作用があります。
PAF(血小板活性化因子)は必要以上に働くとアレルギー反応を引き起こすとされています。IL-5(インターロイキン5)はPAFやヒスタミンの放出を増加させます。
ベポスタチンベシル酸塩はヒスタミン以外の物質にも作用することで高い効果を現します。
蕁麻疹などの皮膚疾患のほか、アレルギー性鼻炎などに使われています。
ロラタジンはクラリチン®などの商品名で処方されています。
第2世代抗ヒスタミン薬に分類される薬です。眠気がかなり軽減されています。実際に自動車の運転への影響を検討した試験において、運転能力に影響を及ぼさなかったという結果があります。
ロラタジンは薬の効果に持続性があり、1日1回服用で効果を現します。
抗ヒスタミン作用のほか、ロイコトリエンなどへの作用があります。蕁麻疹などの皮膚疾患やアレルギー性鼻炎などに使われています。
ヒドロキシジンパモ酸塩はアタラックス®などの商品名で処方されています。
第1世代の抗ヒスタミン薬です。かゆみに特に高い効果があります。
ヒドロキシジンパモ酸塩は「抗アレルギー性緩和精神安定剤」とも呼ばれます。自律神経を安定させる作用があります。かゆみや不安で眠れない症状にも効果があります。
副作用の眠気などを考慮して、寝る前に飲むとして処方されることも多い薬です。
レボセチリジン塩酸塩は、2016年9月現在で一番新しく開発された抗ヒスタミン薬です。商品名はザイザル®です。
レボセチリジン塩酸塩は、セチリジン塩酸塩(商品名:ジルテック®など)という抗ヒスタミン薬を元にして造られた薬です。セチリジン塩酸塩の半分の量で同等の効果をあらわすことが確認されています。
蕁麻疹などのアレルギー性疾患は低年齢化しているとされます。レボセチリジン塩酸塩を使った薬は、乳幼児も使えるザイザル®シロップ0.05%というシロップ剤も開発されています。
ザイザル®シロップ0.05%は通常、生後6ヶ月以上の小児なら飲めます。子供の蕁麻疹などの治療に役立てられている薬です。
レボセチリジン塩酸塩の副作用としてけいれんが起きる可能性があります。頻度は非常にまれです。てんかんなど、けいれんが出る病気にかかったことがある人は注意が必要です。
d-クロルフェニラミンマレイン酸塩は第1世代の抗ヒスタミン薬です。第2世代に比べて古い薬ですが、妊婦にも歴史上多く処方され、安全性が検証されてきた薬です。d-クロルフェニラミンマレイン酸塩は多くの薬の成分として使われています。
ほかの抗ヒスタミン薬は、一般的に妊婦での安全性は確立されていません。薬剤によっては禁忌(使用してはならない)とされています。
d-クロルフェニラミンマレイン酸塩を成分とする薬の例がポララミン®です。
ポララミン®は妊婦にも多く処方されていますが、催奇形性(薬を飲んだ影響で胎児に先天異常が出てしまうこと)の報告はありません。
使用にあたっては医師の診察を経て、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ処方され、適切に使用する必要があります。
ほかにも以下のような抗ヒスタミン薬が使用可能となっています。
抗ヒスタミン薬には一般に次のような副作用があります。
抗ヒスタミン薬は、体の中で作られているヒスタミンという物質の働きを抑えます。ヒスタミンは蕁麻疹や花粉症などのアレルギー反応の原因となる物質です。
抗ヒスタミン薬は、ヒスタミンの働きを抑えることにより、蕁麻疹だけでなく花粉症などに対しても効果を現します。
抗ヒスタミン薬の副作用は、中枢神経抑制作用(脳の覚醒などを抑える作用)や抗コリン作用(体内物質であるアセチルコリンという物質を阻害する作用)を持つためであると考えられています。
抗ヒスタミン薬はさらに細かく、第1世代抗ヒスタミン薬と第2世代抗ヒスタミン薬に分けて呼ばれることがあります。「世代」というのは開発された時期を指す言葉です。
第2世代抗ヒスタミン薬のほうが一般的に眠気などの副作用が少ない傾向があります。
ただし、第2世代の薬は確かに第1世代に比べれば眠気などの副作用は軽減されていますが、ポララミン®の安全性の高さやアタラックス®ーPの自律神経系への作用など、場合によっては第1世代の方が有用性や有益性が高いこともあります。
第2世代の中でも眠気などの副作用が比較的あらわれやすい薬はありますし、飲む人の体質によっても変わってきます。例えば、タクシーの運転手を職業にしている人に対して眠気が強い抗ヒスタミン薬を選ぶことがあまり考えにくいように、生活習慣や職業によっても薬を選ぶ基準が変わります。つまり一長一短があるということです。
抗ヒスタミン薬は市販の風邪薬(総合感冒薬)などにも含まれています。知らずに抗ヒスタミン薬を2種類以上飲んでいると、副作用が出やすくなる場合があります。
抗ヒスタミン薬の重複に気を付けるべき市販薬の例として以下のものがあります。
それぞれの注意点を説明します。
花粉症の薬の多くが抗ヒスタミン薬を主成分としています。蕁麻疹の薬と花粉症の薬を別に飲むと、抗ヒスタミン薬が重複する場合があります。
風邪薬(総合感冒薬)の多くで、鼻炎などを抑える成分として抗ヒスタミン薬が使われています。蕁麻疹の薬と風邪薬を同時に飲むと、抗ヒスタミン薬が重複する場合があります。
抗ヒスタミン薬には咳や痰を止める作用もあります。そのため咳止めの薬(鎮咳去痰薬)には抗ヒスタミン薬を含むものがあります。咳止めの薬と蕁麻疹の薬を同時に飲むと、抗ヒスタミン薬が重複する場合があります。
乗り物酔い薬や催眠鎮静薬は一見して抗ヒスタミン薬とあまり関係ないように思うかもしれませんが、実はこれらの薬に抗ヒスタミン薬が含まれている場合もあります。トラベルミン®シリーズの薬の一部は抗ヒスタミン薬のジフェンヒドラミン塩酸塩やクロルフェニラミンマレイン酸塩を含んでいます。蕁麻疹の薬と乗り物酔いの薬で抗ヒスタミン薬が重複する場合があります。
蕁麻疹による皮膚のかゆみに対して、外用薬(塗り薬)が処方されることもあります。蕁麻疹を効能・効果に持つ抗ヒスタミン薬の外用薬は、処方薬としてはレスタミンコーワクリームやベナパスタ®軟膏があります。
レスタミンコーワクリームやベナパスタ®軟膏の成分はジフェンヒドラミンという抗ヒスタミン薬です。ジフェンヒドラミンは市販薬の新レスタミンコーワ軟膏にも使われている成分です。
強力レスタミンコーチゾンコーワ軟膏は抗ヒスタミン薬に加えてステロイド薬と抗菌薬の成分を含んでいます。
蕁麻疹による皮膚のかゆみに対して、抗ヒスタミン薬以外の外用薬(塗り薬)が処方されることもあります。例として以下の外用薬が使われることが考えられます。
以下でそれぞれについて説明します。
フェノール・亜鉛華リニメントは、消毒作用や炎症を抑える作用がある外用薬です。別名で「カチリ」とも呼ばれる薬です。「カチリ」はドイツ語の「カルボール・チンク・リニメント」(Karbol Zink Linimente)の略です。
フェノール・亜鉛華リニメントは成分としてフェノールと酸化亜鉛を含んでいます。フェノールには防腐・消毒・鎮痒(かゆみ止め)の作用があります。酸化亜鉛の作用は収斂(しゅうれん)と呼ばれます。収斂とはタンパク質変性などにより組織や血管を縮め、鎮痛や止血の効果を現すことです。酸化亜鉛には炎症を抑える作用もあります。
フェノール・亜鉛華リニメントは、皮膚に塗ると水分が蒸発し、真っ白な薄い膜を残します。膜ができることで皮膚の保護にも役立ちます。
フェノール・亜鉛華リニメントは水ぼうそう(水疱瘡、水痘)のかゆみに対して子供に処方されることも多い薬です。ただし水ぼうそうを治す薬ではありません。フェノール・亜鉛華リニメントはかゆみ止めの目的で使われます。
フェノール・亜鉛華リニメントの副作用として、粘膜や傷がある部分に付着すると刺激感などが現れます。水ぼうそうでは塗った場所の水ぶくれが破れることに注意が必要です。
蕁麻疹に適したクロタミトンの外用薬は、処方薬としてはオイラックス®クリームなどがあります。
クロタミトンは抗ヒスタミン薬などとは異なるしくみでかゆみを鎮める薬です。ヒスタミンなどの化学物質によるかゆみに対して効果が確認されています。市販薬のオイラックス®ソフトにも使われている成分です。
ステロイド外用薬は抗炎症作用などがあり、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患に対して有効な薬です。蕁麻疹に対してステロイド外用薬を使う場合は専門的な判断が必要になります。
ステロイド外用薬の副作用として次のものがあります。
副作用の面からステロイド外用薬を避けたほうが良い場合もありますので、医師や薬剤師に塗り方を相談してください。
市販の塗り薬の中には、ステロイド成分を含むものもあります。蕁麻疹に対しては、ステロイド外用薬の使い方に専門的な判断が必要になります。市販のステロイドの塗り薬を自己判断で使うことはお勧めしません。持っている薬にステロイド成分が入っているかどうかわからないときはすぐに使わず、薬剤師などに相談してから使ってください。
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