2021年のノーベル賞は物理学賞を真鍋淑郎氏が受賞した。ノーベル賞を受賞した日本出身者は28人となった。受賞に期待が集まった候補の研究者や作家たちを紹介する。
(年齢は2021年9月30日時点)
我々は気候変動を軽減する必要がある。だが、まず今まさに起こっている気候変動を認識し、対処する方法を見いださなければいけない
スウェーデン王立科学アカデミーは10月5日、2021年の物理学賞を米プリンストン大学の真鍋淑郎上席研究員(90)ら3人に授与すると発表した。日本人(米国籍含む)のノーベル賞受賞は28人目、物理学賞では12人目。
地球全体の気候をコンピューター上で再現して予測する数値モデルを開発。大気中の二酸化炭素濃度が気候に与える影響を初めて明らかにした
「地球温暖化を確実に予測する気候モデルの開発」など
宇宙の成り立ちや物性など自然法則の解明に迫る成果を賞する
10月5日に発表済み。受賞したのは米プリンストン大学の真鍋淑郎上席研究員のほかドイツのマックス・プランク気象学研究所のクラウス・ハッセルマン氏、イタリアのローマ・サピエンツァ大学のジョルジョ・パリージ氏。中村氏を除く写真は共同
地球全体の気候をコンピューター上で再現して予測する数値モデルを開発。大気中の二酸化炭素濃度が気候に与える影響を初めて明らかにした
ありふれた素材使い高精細で消費電力少ないディスプレーなどを実現
磁石の性質を持つ省電力半導体の基礎研究に尽力
電気と磁気両方の特性持った新物質を発見、次世代メモリー開発に道
モーターの力を驚異的に高める磁石を発明、ハイブリッド車からハードディスクまで採用広がる
現在のコンピューターの限界を打ち破る可能性のある次世代の計算機「量子コンピューター」の開発に貢献
人体の仕組みや病気の治療法などの開発で貢献した人をたたえる
10月4日に発表済み。日本人の受賞者はいなかった。受賞したのは米カリフォルニア大学サンフランシスコ校のデービッド・ジュリアス教授と米スクリプス研究所のアーデム・パタプティアン教授の2氏。写真はすべて共同
細胞の器官「小胞体」の知られざる働きを解明、様々な疾病の治療に貢献
エイズウイルスの増殖を妨げる物質を次々に発見、エイズ治療のパイオニアに
細菌やウイルス退治に欠かせない免疫機能で新たな細胞を発見
コレステロールを低下させる物質を発見、心臓病などの死亡から患者を救う
プログラムされたかのように細胞が自殺する仕組みを解明し、新しい治療法に道
がん分子の機構を解明、狙い通りに投薬する技術に道
脳と心の関係調べる研究に光
関節リウマチなどの炎症を起こすタンパク質を発見
物質を作る分子や化学合成などの発見、応用に道を開いた業績を賞する
10月6日に発表済み。日本人の受賞者はいなかった。受賞したのはドイツのマックス・プランク石炭研究所のベンジャミン・リスト教授、米プリンストン大学のデービッド・マクミラン教授の2氏。北川氏を除く写真は共同
勝手に集まる分子の現象から新技術を開発、食品科学などの発展に貢献
狙った分子を取り込む新素材の開発に貢献
分子をつなげる新技術開発で物質の未知の力引き出す
狙ったとおりに化合物を合成、新素材開発を後押し
生物の機能そっくりの人工物合成に成功、もの作りの省エネ化に道
光で汚れをきれいにする光触媒技術を開発、浄化に新風
200年にわたる植物の光合成の謎を解き明かす
メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの実現につながる基礎研究
理念をもって創作し、最も傑出した作品を生み出した人をたたえる
10月7日に発表済み。日本人の受賞者はいなかった。受賞したのはタンザニアの作家、アブドゥルラザク・グルナ氏。
言わずと知れたベストセラー作家。作品は50以上の国・地域で翻訳出版され、2006年にフランツ・カフカ賞を受賞
大学を卒業後、ドイツに移住。日独双方の言葉で詩や小説を発表し、1993年に芥川賞受賞。世界を旅しながら執筆する
1991年に「妊娠カレンダー」で芥川賞。「博士の愛した数式」は読売文学賞、本屋大賞を受賞しベストセラーに
カナダの代表的作家。トロント大、米ハーバード大院などで英文学を学び、詩人、評論家としても活動。写真はロイター
植民地下のケニア生まれ。英語で小説の執筆を始めたが、1970年代からは民族語のギクユ語で作品を書く。写真は共同
カリブ海のフランス海外県グアドループに生まれ、パリで教育を受けた後アフリカにわたる。戯曲や児童文学も執筆。写真はゲッティ共同
旧ソ連バシキール自治共和国生まれ。モスクワ大学では遺伝学を専攻した。現代のロシア文学を代表する一人
中国・杭州生まれで、幼少期に文化大革命を経験。父は医師、母は看護師で、歯科医のかたわら執筆活動をはじめた
河南省の貧しい農村に生まれ、20歳で人民解放軍に入隊。中国社会の問題点を鋭く描き、中国本土では発禁や増刷禁止の本も多い
経済学の発展や拡充につながる研究で卓越した業績を賞する
10月11日に発表済み。日本人の受賞者はいなかった。受賞したのは米カリフォルニア大学バークレー校のデービッド・カード教授、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のヨシュア・アングリスト教授、米スタンフォード大学のグイド・インベンス教授の3氏。
金融危機が景気低迷につながるメカニズムを解明、銀行が企業にお金を貸す際の「担保」に注目した
1969年、地球規模の大気の流れを模擬するモデルに海洋から出る熱や水蒸気などの影響を加味した「大気・海洋結合モデル」を開発。さらに、全地球を覆う精密なモデルに発展させた
地球上の物理現象をコンピューターでシミュレーションする技術は、地球温暖化の将来予測や対策の効果予測などに欠かせない
1958年に渡米、米気象局に入る。75年に米国籍取得。同僚や学生からは「淑郎」を呼びやすく縮めた「Suki(スーキー)」の愛称で呼ばれる
ガラスなどの透明な材料は電気を通しにくいという常識を覆し、透明酸化物半導体を開発。電気抵抗がなくなる超電導でも成果
高精細で消費電力の少ないディスプレーを実現。スマートフォンなどに相次ぎ採用される
「ありふれた元素で優れた素材を作る」ことを研究のポリシーに据える
磁石の性質を持つ半導体「強磁性半導体」を作ることに成功
電子の磁石の性質を利用して省電力の半導体を実現する研究が進む
ノーベル賞受賞者の江崎玲於奈氏の研究室に研究員として1988年に赴任。江崎氏から「誰もなし遂げていない成果を」と激励され続けた
物質内で起こる電気や磁気の相互作用を解明。次世代メモリーに役立ちそうな「マルチフェロイック物質」を発見
コンピューターに使われるメモリーの高速・大容量化の応用研究が進む
兄は住友化学の十倉雅和会長。「物性は1つの概念では分からない。多くの相互作用を解明することで見えてくる」をむねとする
ネオジムと鉄、ホウ素などからなる「ネオジム磁石」を開発。1センチ角の磁石で数キログラムの鉄の塊を持ち上げる世界最高性能の磁力を実現
省エネ性能の高い小型モーターの開発につながり、ハイブリッド車からハードディスクまで幅広く利用が進展
富士通に在籍していた77年に研究を思いついたが、同社が研究を打ち切ったため住友特殊金属(当時)に移籍。その後、自らスタートアップ企業も設立した
量子コンピューターの基本的な素子「超電導量子ビット」を世界に先駆けてつくり出した
量子コンピューターの開発にはずみがついた。素材開発や金融、人工知能(AI)などに革新をもたらすと期待されている
4月から理研の量子コンピュータ研究センターの責任者に就任。100人以上の研究部隊を率い、激しくなる国際競争に挑む
細胞内の小器官「小胞体」が体内で作られた不良品のたんぱく質を見つけて壊したり、修復したりする仕組みを解明
たんぱく質の不良品がかかわる糖尿病やパーキンソン病など様々な疾病の治療法開発に道をひらく
剣道五段。ここと思ったときにためらわず行動する「放心」と相手に勝ったと思っても気を抜かない「残心」を極意とする
エイズの原因ウイルス(HIV)の増殖を強力に抑制する物質を発見、エイズの最初の治療薬を開発
発症すると2年以内に9割近くが死亡するHIVの治療薬開発競争のさきがけとなる。治療薬「ダルナビル」を国際機関に無償提供し、後発薬の普及に貢献した
米国で研究を始めた当初は同僚や技術スタッフがHIV感染を恐れ協力してくれなかったことも
免疫細胞が細菌など外敵を攻撃する際、働きが強まると暴走して自分自身の細胞を傷つけてしまうが、この免疫の暴走を抑える制御性T細胞を発見
抗がん剤を効きやすくする新薬や、免疫の暴走によって引き起こされる難病の治療薬実現に道を開く
母方の家系は医師ばかり、父親は哲学科の卒業。大学院では双方からの影響を受け哲学の面白さとサイエンスが両立する病理学を学んだ
高脂血症などの治療に使うコレステロール低下剤「スタチン」のもとになる物質を発見
スタチン系の薬は今でも毎日世界で4千万人以上が服用し、心臓病や脳卒中の予防に役立っている
小学生の時、野口英世にあこがれ科学者を志望。大学生のころは抗生物質のペニシリンをアオカビから発見した英国の微生物学者を目標にしていた
プログラムされたかのように細胞が自殺する「アポトーシス」という仕組みを解明
心筋梗塞や自己免疫疾患、がんなどの新しい治療法の開発につながる可能性
所属機関へのこだわりは少ないようで、東京大学→チューリヒ大学→大阪バイオサイエンス研究所と渡り鳥のように転籍してきた
がんの血管の隙間から漏れ出す分子が集積し長時間とどまる機構を解き明かし、がん血管に薬剤を集中させることができるEPR効果を発見
がんを狙って薬を届けられるドラッグ・デリバリー・システムの実現に道筋をつける
国立がん研究センター発の認定ベンチャーで唯一、抗体医薬を開発するバイオベンチャーを2016年に創設。今も取締役に就く
脳の活動の様子を血流から調べる機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)の原理を発見
脳活動と心の関係を調べる研究が盛んになり、トラウマの解消など臨床応用が進展
「(身の回りには)実はIgnore(無視)していることがたくさんあるかもしれない」と説く
炎症などを引き起こすたんぱく質「インターロイキン6」を発見。関節リウマチの治療薬「アクテムラ」の開発につなげた
関節リウマチ治療薬は世界で2000億円を超す売上高の「ブロックバスター」に成長した。炎症を抑える効果は新型コロナウイルス感染症でも重症化を抑える治療効果が期待されている
岸本氏は厳しい指導で優れた研究者を数多く育てた。iPS細胞の山中伸弥・京都大学教授を発掘した「目利き」としてもしられる。平野氏は自身を「行動の人」と語り、考えるばかりでなく行動することが大事と若い研究者らに教えた
分子が自然と集まって新しい機能や構造を持った化合物を作り出す「自己組織化」技術を開発
数年かかっても特定できなかった分子の構造を数週間で特定することが可能となり、創薬や新素材の開発に貢献
千葉大学の助手を務めていたころの「きれいな正方形の分子を作ってみたい」という遊び心が研究の原点に
ジャングルジムのような構造の分子の中に、狙った分子だけを閉じ込める新素材を開発
二酸化炭素や水素などを回収したり、貯蔵したりする脱炭素で期待される新素材などの開発に貢献
研究を説明する際には「無用の用」という荘子の言葉を持ち出す。「すき間としか思われていなかった空間が重要になる」という指摘だ
ゴムや樹脂をつくる鎖状の「高分子」は副反応を起こすことで鎖の長さがバラバラになり機能が落ちやすくなるが、分子をつなぐ重合で副反応を起こしにくい「精密重合」を開発
インクジェットプリンターできれいに発色するインクや形を変えやすい高性能ゴムなど産業応用が進む
京大教授時代、大阪大学や名古屋大学などの研究室と「オリオン会」という研究会を主催。研究内容について他大学と激しく議論を戦わせることに重きを置いていた
化学反応を促す触媒を精密に設計し、医薬品開発に欠かせない化合物を狙った通り合成する技術を開発
医薬品や農薬、電子材料などへの応用研究が進む
「定石は好きではない。壁があることが一番の喜び」をモットーとする
細胞膜に似た膜を人工的に合成することに成功
生物の機能をまねて製造技術の省エネルギーにつなげる「バイオミメティクス」のさきがけとなる
子どものころ、数学と物理は苦手で好きだったのは国文学と経済学。九州大学工学部に進んでも弟の学費を稼ごうと卒業後すぐの就職を考えていた
二酸化チタンが水を酸素と水素に分解し、光触媒の機能を持つことを発見
光触媒抗菌タイルを使ったトイレや浴室の実用化、病院内の院内感染防止など関連市場は少なくとも1千億円規模に
光触媒を初めて使ったのは築40年の自宅の壁。玄関脇には「外壁に光触媒塗っています」というパネルも置いた
神谷信夫大阪市立大学特別招へい教授と植物が光合成に使う巨大なたんぱく質の構造を解明
太陽光によって水から水素などを生産、新エネルギーとして利用する実証研究進む
光合成の実験では大学近くのスーパーで週に1度30束ほどのホウレンソウを買い込み、スーパーの店員に顔を覚えられたことも。実験で残った茎の部分は家でおひたしにして食べていたがいつしかホウレンソウ嫌いに
体内に入れたmRNAが免疫によって取り除かれない方法を見つけた
新型コロナウイルスのワクチンの早期の実現につながった。がんやエイズウイルス(HIV)など様々な病気に応用が広がる
研究を始めた当初は研究費の申請は拒絶され、降格や減俸などにもあった。それでもmRNA技術の将来性を信じて粘り強く研究を続けて実を結んだ
1987年刊行の「ノルウェイの森」は国内で1100万部を超えたメガヒット小説。学生の恋と性と憂鬱を描き、新しい日本文学として世界の読者の心もつかんだ
普遍的で、スタイリッシュ。文学性が高く評価されると同時に世界的な大ベストセラー作家。この「両立」は極めてまれ
「献灯使」(2014年)は、大災害に見舞われて鎖国状態に陥った日本を描くディストピア小説。全米図書賞の翻訳文学部門を受賞し、国際的に注目された
異なる言語の間を往還しながら物語を紡ぐ「越境文学」の優れた書き手。豊かな言葉遊びがもたらすユーモアも特長
記憶が奪われる島の物語「密やかな結晶」(1994年)が四半世紀の時を経て2019年に英訳刊行。同年に全米図書賞の翻訳文学部門、20年英ブッカー国際賞の最終候補になった
海外で最も精力的に小川作品を出しているのは、1995年から翻訳刊行が続くフランス。記憶や喪失といったテーマを、静謐(せいひつ)な文章でつづる
「侍女の物語」(1985年)は、女性が出産の道具として扱われる国家を舞台に、自由を求める人々の姿を描いた作品。2020年には続編「誓願」の邦訳が刊行され話題に
鋭い先見性とパワフルなストーリーで幅広い読者を獲得。「侍女の物語」は、格差と分断の進む今こそ「ありうるかもしれないもう一つの世界」の様相を強めている
自伝的小説「泣くな、わが子よ」(1964年)が出世作。評論集「精神の非植民地化」(86年)は、アフリカの言語と文化を巡る論考として重視されてきた
民族語で書くとともに、実はその英訳も自分で手掛ける。アフリカの言語と文化を豊かに発展させるとともに、世界の読者に作品を届けている
多くの国の移動を通じて身につけた多言語、多文化的な描写が特徴。奴隷の子孫の歴史を語る「生命の樹」(1987年)も、さまざまな場所を相対化してつづっている
2018年にはノーベル文学賞の代替で設立された「ニュー・アカデミー文学賞」を受賞。この受賞がノーベル文学賞の選考に影響するのか否か……
ある平凡な女性の一生を描く「ソーネチカ」(1992年)で知名度がぐっと上昇。平明な語り口で、静かに人生を肯定する
母国のロシアよりも先にフランスやイタリアで大きな文学賞を受けて評価された作家。自身が生きたソ連時代を複合的にとらえる視点が特徴的
義理の兄弟の人生を通して現代中国の諸相を活写する大作「兄弟」(2005年)は、ユーモラスな語り口とスピード感あふれる展開が受け、ロングセラーとなった
チャン・イーモウ監督が映画化した「活きる」で知る人も多いのでは。人気と文学性を兼ね備えた中国のベストセラー作家
架空の貧村が爆発的に発展し大都市になるまでをつづった「炸裂志(さくれつし)」(2013年)など、近年は中国社会を丸ごと描きだすようなスケールの大きな作品を世に問うている
村上春樹氏が受賞したフランツ・カフカ賞を14年に受賞。川端康成ら海外文学の影響を受けて、現実と奇想が混交する独特の作風を確立している
担保価値の下落により金融危機が増幅する過程をモデル化、銀行保有の資産が売れなくなる「流動性」の問題も提起
2008年以降の世界金融危機で、米連邦準備理事会(FRB)が市場から大規模に資産を買い入れる政策に応用された
東京大学の学生時代は故・宇沢弘文名誉教授に師事。「このままだと先生の亜流になる」との思いで米国に渡った
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