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2021年5月26日
ASEANは、新型コロナウイルスのまん延により社会・経済に深刻なダメージを受けている。そうした中で2021年に優先的に取り組むのが、前年11月に採択された「ASEAN包括的復興枠組み(ACRF)(5.65MB)」の実行だ。ACRFでは広域経済統合、デジタルトランスフォーメーション(DX)、持続可能性(サステナビリティー)など5つの広範な戦略を旗印として、経済を以前の水準まで回復させ、より強靭(きょうじん)な地域・市場の実現を目指す。対話国である日本との連携・協力も重視し、地域の主要プレーヤーである日系企業への期待も高い。
ACRFは、2020年11月8日の第37回ASEAN首脳会議で採択された。ASEAN事務局の関係者によると、2021年、ASEANはACRFの実行に重点を置いて活動するという。ASEANの対話国である日本やASEANで高いプレゼンスを持つ日系企業としても、ASEANへの貢献という観点から、ACRFが示した方向性に従った取り組みを歓迎している。
ACRF発表時の声明 によると、2020年のASEAN経済は1998年以来となるマイナス成長が見込まれるなど、新型コロナウイルス感染まん延による大きな影響がみられる。この危機に対し、ASEANは加盟国やダイアログパートナー(対話国・地域:日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、米国、ロシア、カナダ、EUなど)と協力し、感染症を克服するとともに社会・経済の復興を目指す戦略の検討を迫られた。その結果、策定されたのがACRFだ。これは、ASEANの3つの共同体、ASEAN政治・安全保障共同体(APSC)、ASEAN経済共同体(AEC)、ASEAN社会文化共同体(ASCC)を横断し、新型コロナウイルス危機からの統合的出口戦略としての役割を果たす。
なお、ACRFは広範にわたる戦略だ。そのため、全ての事項や取り組みを取り上げることは難しい。ついて本稿では、ACRFの概要・ポイントを伝えたい。経済分野に関わる部分では、これまでAECで推進してきた貿易・投資の拡大や広域経済統合という視点に加えて、DXやサステナビリティーという要素が追加されている。これらは2021年の議長国ブルネイが目指す優先経済デリバラブル(PED、2021年1月19日ビジネス短信参照)や、同年4月末に公開されたAEC2025中間見直し(AECミッドターム・レビュー)で重要課題に据えられている。
ACRFには6つの原則があり、焦点を絞り(Focused)、均衡が取れ(Balanced)、インパクトがあり(Impactful)、実践的で(Pragmatic)、包摂的で(Inclusive)、評価可能(Measurable)でなければならない。この6つのキーワードは、ACRFの至るところで強調されている。
パンデミック(新型コロナウイルス感染の世界的大流行)により最も影響を受けた人々や集団、産業に焦点を当て、広範な戦略を設定する。そして、地域や集団の優先事項に従った復興手段を特定し、復興プロセスの各段階の実践的な対応を明確化している。ASEANは復興に向けたアプローチについて、「積極的かつ包括的(地域全体)で、柔軟性・機動性があり、状況変化に応じた戦略を簡単に採用できる必要がある」「復興は、地域の全ての人に恩恵をもたらすよう、持続可能かつ広範なものでなければならない」と、ACRFのコンセプトを説明している。
ACRFはこの6つの原則に基づき、実行計画として3つの時期に分けた段階的アプローチを採用した(表1)。その上で、5つの広範な戦略(ブロード・ストラテジー)を大きな柱として計画が進められる(参考1)。3つの時期は、ニューノーマルへの移行を成功裏に遂げるための「再開段階(Re-Opening)」、経済・社会が従前の水準まで完全回復する「復興段階(Recovery)」、新たな潮流や課題に対策して「強靭性を向上する段階(Resilience)」の3段階とされ、「3つのR」と呼ばれる。ACRFでは短期的な対応だけではなく、中期的・長期的なアプローチも組み込んだ枠組みになっている。
出所:ACRF
ACRFの柱となる5つの広範な戦略(ブロード・ストラテジー)とは、(1)保健システムの強化、(2)人間の安全保障の強化、(3)ASEAN域内市場とより広範な経済統合の潜在性の最大化、(4)包摂的なDXの加速、(5)より持続可能で強靭な未来に向けた前進、だ。各戦略の概要は参考1のとおり。
出所:ACRF
ACRFの実行計画(1.85MB)では、5つの広範な戦略ごとに6~11項の「優先事項(キー・プライオリティー)」を設けられた。その優先事項を達成するための「イニシアチブ/プログラム」「アウトプット/成果物」「実行フェーズ/タイムライン」「主導/関連セクトラルボディー(分野別機関)」を記載している。今回新たに設けられたイニシアチブやプログラムは、多くない。しかし、従前の措置を集めただけではなく、効果的なものに焦点を絞って優先順位付けされた。各セクトラルボディーなどが実行役として、行動計画が振り分けられている。そのため、具体性・実現性の高さが期待できそうだ。
5つの広範な戦略のうち、戦略3~5が日本企業に特に関係する。内容を確認すると、戦略3には、これまでASEAN経済共同体(AEC)で進めてきた取り組みが包含されている(参考2)。貿易・投資の自由化、ASEAN物品貿易協定(ATIGA)の原産地規則の改善、電子原産地証明書や自己証明制度導入、サービス貿易の自由化、貿易円滑化と非関税障壁の撤廃、物流円滑化・連結性向上、地域的な包括的経済連携(RCEP)、などだ。
注:ハノイ行動計画は、新型コロナウイルスへの対応として、ASEANの経済協力とサプライチェーン連結性を強化する計画。2020年6月のASEAN経済大臣特別会合で採択。
出所:ACRF
2020年中は、ATIGAのASEANワイド自己証明制度(AWSC、2020年10月13日付地域・分析レポート参照)が稼働した。このほか、ASEAN税関トランジット・システム(ACTS)が導入されたり、ASEANサービス貿易協定(ATISA)とRCEP協定が署名されたりするなど、経済統合分野で進展がみられた。2021年はASEN電子商取引協定やATISA、RCEP協定、自動車製品の型式認証に関する相互認証協定(MRA)の発効・運用開始が見込まれる。ASEANシングルウインドー(ASW)の拡張なども期待できる。2021年は、こうした経済統合の動きがさらに深化していく。
他方、制度があっても、実際に企業が利用するまで普及していないという課題はある。例えば、ATIGA電子原産地証明書(e-Form D)利用では、ベトナムは「完全に導入した」と発表していても、実際は技術的なトラブルが多くて使えないケースがあった(2021年4月28日付ビジネス短信参照)。
また、コンテナ不足に伴う海上輸送料の高騰が企業の業績に大きな影響を与える昨今、インドシナ半島でのクロスボーダー・トラック輸送などの陸上輸送が重要性を増している(2021年4月27日付地域・分析レポート参照)。しかし、新型コロナウイルス感染拡大により、これまで進捗してきた越境交通協定(CBTA)によるトラック相互乗り入れなどの取り組みが足踏みしている。また、新たな国境ゲートの開発がなかなか進まなかったりといった現実もある。こうした課題への取り組みが再び推進されるよう、日系企業からも声が上がっている状況だ。
なおRCEP協定は、ACRF作成時点では署名されていなかった。しかし、2020年11月15日に署名(2020年11月16日付ビジネス短信参照)。すでに、シンガポール(2021年4月13日付ビジネス短信参照)と中国(2021年4月27日付ビジネス短信参照)が批准するなど、着々と発効に向けた手続きが進んでいる。RCEP協定は、ASEAN10カ国のうち6カ国以上とASEAN以外の5カ国のうち3カ国以上の批准後に発効する。
第4の広範な戦略では、包摂的なDXの加速を目指している。主な取り組み分野としては、第4次産業革命、スマート・マニュファクチャリング、電子商取引(EC)、電子政府(行政手続きの電子化)、デジタル金融・決済、遠隔地や農村部の接続性と情報通信技術(ICT)教育などを挙げた。また規制面では、従前のデータガバナンス、サイバーセキュリティー、消費者保護などの整備が急務とした(参考3)。
出所:ACRF
2020年以降、ASEANで取り組みが進捗している分野としては、デジタル金融の協力が挙げられる。例えば、複数の国が相互運用可能なQRコードを発表(2021年4月1日付ビジネス短信参照)。そのほかにも、2021年4月にシンガポール通貨金融庁(MAS)とタイ中央銀行(BOT)が即時リテール決済システムの連結を打ち出したりした(2021年5月10日付ビジネス短信参照)。また、当地では行政の電子化が十分でないという声がしばしば上がる。しかし、新型コロナウイルス感染対策として各国の自主努力により電子政府の取り組みも着実に進んでいる面がある。
デジタル関連のルール形成については、ASEAN各国で個人情報保護法やサイバーセキュリティー法、デジタル課税などについて、法制度・規律の整備が急速に進んでいる(ジェトロ世界貿易投資報告2020年版第IV章参照(2.77MB))。もっとも、ASEAN全体としてはASEAN電子商取引協定
(4.78MB)が2019年に公開されたものの、2021年4月末時点で発効していない状況だ(インドネシアの批准待ち)。他方、WTOの電子商取引交渉にはカンボジアを除いた9カ国が参加し、RCEP協定にも電子商取引章が設けられている。このため、データ・ローカライゼーション要求の禁止やデータフリーフローの義務などの基本的なルールは、担保されることになりそうだ。
第5の戦略は、持続可能性(サステナビリティー)やグリーンがキーワードになっている。この中には、循環型経済、海洋ごみの削減、省エネルギーと燃料効率向上、アクティブトランスポーテーションなど、消費側でのイニシアチブが含まれる。そのほか、持続可能な開発目標(SDGs)、責任ある企業行動(RBC)、企業の社会的責任(CSR)、人権デューデリジェンスといった企業行動の規範に関する目標を定めている。
出所:ACRF
日系企業にとって関心が高いキー・プライオリティーは「5b.持続可能なエネルギーへの移行促進」だろう。この項目では、ASEANエネルギー担当高級実務者会合(SOME)が主担当になる。復興期から強靭性向上期にかけて、ASEANエネルギー協力行動計画(APAEC)フェーズ2(2021~2025年)の施策を実施しつつ、家電製品・建物・産業機器のエネルギー・燃料効率向上のための投資支援を行うとしている。また、電気自動車、水素、バッテリー、その他の柔軟性のあるエネルギー源、二酸化炭素回収・貯留技術などの新技術を展開するための能力をASEANが確保するため、より大きなイノベーションや協力、パートナーシップを通じて、エネルギー移行を強化するとしている。具体的な成果としては、こうした技術に関する新たな連携やプロジェクトを求めている。関連技術で長じる日本企業への期待も大きいとみられる。
広範な戦略1「保健システムの強化」と戦略2「人間の安全保障の強化」については、企業への関わりが大きくないため、本稿では取り上げなかった。しかしこれらの中には、企業にとって重要な事項も盛り込まれている。例えば戦略2では、デジタルスキルの促進や、労働者のリスキリング、アップスキリングを取り入れたビジネスモデルの構築などを目指すとされた。その結果、ニューノーマル下の労働者政策、移民法など、地域でのモデル構築やルール形成が進むとみられる。戦略1では、特に在留邦人の関心の高いワクチンに関して、2021~2025年の行動計画を策定する。
東南アジア市場の若い世代では、地域の社会課題の解決に関心があり、社会や身近な人々との調和を重視する価値観がみられる。そのため、ASEANでビジネスを展開する企業が地域の社会課題解決に関わり貢献しているのかは、今まで以上に重要なポイントだ。地域への貢献度が高いブランドは、価格が多少高くても購入するという調査結果もある(博報堂生活総合研究所アセアン「アセアン生活者研究2021」)。地域への貢献が、企業やブランドの選好にも影響を与えるわけだ。ACRFには、ASEANが地域として抱える社会課題が盛り込まれており、こうした課題に貢献する姿勢を見せていくことが結果として、ビジネス上の成功にもつながる可能性がある。
なお、ASEANの社会課題の解決に向けた日本企業の貢献や取り組みという点では、2020年の日ASEAN経済大臣会合での合意を経て創設された「イノベーティブ&サステナブル成長対話(DISG)(450.61KB)」はフォローしておきたい。ASEANが直面する「様々な社会課題の解決」と「経済成長の実現」の同時達成を目指し、日本が貢献しうる領域を特定した上で、政策的支援を強化していくこととされており、ACRFの5つの戦略の内容も広くカバーされている。英文サイト
にはなるものの、当該分野でASEANの課題解決を図る日本企業の活動などが参考になる。直近では、DISGの一貫で、「イノベーティブ&サステナブル成長」をテーマに、日本企業の今後のASEAN地域でのビジネス機会拡大と政策対応を議論する「日ASEANビジネスウィーク」が開催されている。日本語サイト
では、まもなく結果概要を掲載予定であり、こちらも日本企業にとって参考になりそうだ。
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