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日経ビジネス記者
加齢とともに、それまで当たり前だった日常生活における行為が時に危険へと変わりかねなくなる。誤嚥性肺炎や転倒・転落など死因としても上位に入り、重い後遺症となるリスクをどう回避するか。日常的なデータを学習・分析することで不慮の事故を防ぐ。そんなデバイスやサービスが広がり始めた。
「うまく飲み込みができていますね」。ある病院でスタッフが食事中の患者に声を掛ける。チェックしているのは入所者が首に付けているネックバンド。筑波大学発のスタートアップ企業、プライムス(茨城県つくば市)が開発した嚥下(えんげ)計「GOKURI(ゴクリ)」だ。
加齢などにより、ものを飲み込む嚥下機能が衰えると、食べ物や唾液が通常の食道ではなく気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」の可能性が高まる。気管にものが詰まって窒息につながるだけでなく、食べ物とともに取り込まれた口腔(こうくう)内の細菌が肺炎の原因となることがある。 厚生労働省の人口動態調査によると、2020年の死因別死亡数はこの「誤嚥性肺炎」が4万2000人以上と6番目に多く、19年より2000人以上増加した。
防止が難しいのは、嚥下機能の低下が把握しにくいためだ。病院や介護施設は誤嚥性肺炎を防ぐために言語聴覚士や医師が聴診器で飲み込む音を聞くなどして嚥下機能を判断するが、正確に聞き分けることは難しく経験が必要。エックス線による検査もあるが、患者への負担がかかる。
そこで、正常な嚥下ができているかの手軽な検査手段として開発されたのがゴクリだった。ネックバンドの内側に備えたセンサーが聴診器のように飲み込む音を聞き取り、正しい飲み込みができていれば外側のランプが緑色に、できていなければ赤色に光る。
判別を担うのは人工知能(AI)で、3万回以上の飲み込む音を学習しており、判定精度は97%を超えるという。
加えて、ゴクリでは患者ごとの測定結果をネットワーク上のデータベースに記録。センサーで感知した嚥下回数や嚥下のスピード、せき込んだ回数のほか、連携したスマートフォンで撮影した食事の姿勢などをチームで共有することができる。
「嚥下機能の把握には言語聴覚士らの高い能力が求められてきたが、高い水準での平準化が可能になることで誤嚥リスクの見逃しを防げる」とプライムスの仁田坂淳史取締役。嚥下機能の低下を早期に発見できれば適切な治療を受けさせたり、飲み込みやすい食事を提供させたりと誤嚥を遠ざける対応ができるようになる。ゴクリの量産化を進め「血圧計のように」(仁田坂氏)各家庭などへの普及を目標とする。
ゴクリのようにリスクの正確な把握は、対策が必要な高齢者に必要な対策を行うという人材の適正な配置にもつながる。高齢化が進み、医療や介護に従事する人たちの不足が懸念される中で、彼らの負担をいかに軽減させるかは喫緊の課題だ。
AIを使って転倒や転落を防ぐことで、高齢者の暮らしをサポートする取り組みも進んでいる。
消費者庁のまとめでは、16年の高齢者の「転倒・転落」による死亡者数は7116人。「不慮の事故」の中では窒息(8493人)に次いで2番目に多く、交通事故(3061人)の倍以上に上る。死亡に至らなくても、けがの後遺症などでその後の人生に重大な影響を与えかねない。
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2021.11.19更新
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