北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督誕生で、日本中が熱狂している。“ビッグボス”のパフォーマンスと指導力に期待と注目が集まっているのはもちろん、49歳の球界のスター監督は、コロナ禍以降インバウンド消失などで元気がない北海道の救世主となるのか──。ジャーナリストの山田稔氏がレポートする。
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11月4日の監督就任会見から1週間以上経ったが、この間、メディアは連日「ビッグボス新庄」の言動を報じ続けてきた。SNS上も含め、新庄語録のオンパレードだ。
「優勝なんか一切目指しません」「監督って皆さん呼ばないでください。ビッグボスでお願いします」「世界一の球団、世界一のチームにしたいです」
新庄節は、瞬く間にSNS上を駆け巡り、ファイターズファンのみならず、多くの国民のハートを掴んだ。
◆新庄の評価を上げた「デキる上司」の一面
沖縄で行われていた秋季キャンプには、ド派手なファッションで登場し、伸び悩む清宮にはダイエットを指示した。
「やせたら打球が飛ばなくなるのが怖い」と打ち明けた清宮に、「今もそんなに飛んでないよ」とピシャリ。続いて「(本塁打を量産していた)昔のほうがもっと飛んでいた。昔のほうがスリムじゃなかった? それはキレがあったから。今はちょっとキレがない気がするから、やせてみよう」「やせたほうがモテるよ。格好いいよ」とアドバイスした。
頭ごなしに「やせろ」と言うのではなく、「やせたほうがキレがある」と理論で説得し、「やせた方がモテる」という軟派なひと言で、悩める若者の心をくすぐる。デキる上司の一面をうかがわせるシーンだった。
キャンプ2日目までは視察、指導終了後にメディアの取材に応じていたビッグボスだったが、3日目(11月10日)は「終わってからのトークはないから」と話し、その理由に「クライマックスがあるから」と明かした。この日から始まるセ・パ両リーグのクライマックスシリーズに配慮したのだ。この姿勢がまたネット上で「配慮のある大人の対応」として、一段と評価を上げている。
◆新庄と日ハムの「運命的な縁」
あまりの注目度の高さに、早くも「新庄監督の経済効果は59億6434万円」といった専門家の予測が報じられ、就任会見から2日間のメディア露出だけで、広告費に換算すると104億9021万円になるといった調査会社の算出結果もニュースになった。第2次岸田内閣発足よりもはるかに注目されている“新庄劇場”である。
観客動員という意味で注目されているのが、11月30日に行われる「北海道日本ハムファイターズ ファンフェスティバル2021」のチケット販売だ。
球団のHPで確認すると、アリーナ指定席、ダイヤモンドシート、スタンドS指定席は11月12日時点で完売。スタンドA、B、C指定席は「残りわずか」となっていた。今回は、球団初の取り組みとしてオンライン観戦チケット(2000円)も販売中だ。いったい、どれだけの人々が観戦するのか。このイベントに新庄新監督がサプライズで登場すれば、盛り上がりは絶頂に達するだろう。
令和の救世主になり得るビッグボスの登場を、北海道の関係者はこぞって大歓迎している。鈴木直道知事はこんなコメントを発表した。
〈新庄新監督は、現役時代はファイターズの北海道移転元年である2004年のシーズンから加入し、華麗な外野守備、そして印象に残るパフォーマンスで球場を盛り上げ、ファンを楽しませるとともに、現役最終年である2006年には、球団が初の日本一となるなど、ファイターズが道民球団として定着することに大きく貢献されました。監督としても、選手、コーチと一体となって、ファイターズを日本一に導き、道民の皆さんに夢と感動を与えてくれることを期待しています〉
そうなのだ。移転初年に加入し、現役ラストイヤーに初の球団日本一を達成──。新庄監督と北海道日本ハムファイターズの縁は、まさに運命的なものがあると言っていい。それだけに道内のファンや関係者からすれば「おかえりなさい」ということなのだろう。
◆ご当地コンビニ、セコマの「粋なリプライ」
就任会見前日の11月3日、新庄監督はツイッターで北海道到着を報告し、続けて「さぁ ポプラ(コンビニ)に行ってきます」とツイートしたが、このツイートが話題となった。道民からは「そこはセコマだべ」などの突っ込みが。どうやら勘違いだったらしい。すると、北海道を代表するコンビニであるセイコーマート(愛称・セコマ)が、こんなリプライをした。
「新庄監督お帰りなさい! 北海道のご当地コンビニ、セイコーマートです! 今後ともよろしくお願いします!」
この投稿に3938件の「いいね」が付き、「セコマさんナイス」といった好反応が続々と寄せられた。当のセイコーマートに投稿の意図について聞いてみた。
「セイコーマートとしてご挨拶の気持ちを込め、新庄さんから弊社に投げていただいたボールを打ち返しました。新庄さんの投稿が11月3日の祝日だったため、翌日4日にリプライさせていただきました。
弊社内でも多くの社員が新庄さんのツイートを拝見しており、大変ありがたいことにツイッターでも、たくさんの方がセイコーマートの名前をリプライで推してくださっていたのを拝見し、大変うれしく思いました。今後、北海道をより一層盛り上げてくださることを期待しています」(広報担当者)
当意即妙な対応と、そこに加わって盛り上げる道民たち。こんなところにも新庄効果と期待度の高さがあらわれている。
◆コラボ商品開発に意欲見せるローソン
さて、日本ハムには数多くの企業がオフィシャルスポンサーやグランドパートナー(出資企業)として名を連ねている。
いずれも北海道にかかわりのある企業で、ニトリ、ホクレン(ホクレン農業協同組合連合会)、野口観光のように道内に本社や本部をおいている企業や、ANA、イオン、ローソンなど北海道をビジネス拠点としている企業である。北海道のメディアである北海道新聞や北海道が創業の地であるサッポロビール、そしてホクレンはオフィシャルスポンサーとグランドパートナーの双方に名前がある。
意外なことに、オフィシャルコンビニとなっているのはセコマではなくてローソンだった。北海道移転直後からの付き合いだという。そこで、ローソンに新庄新監督への期待と、今後のコラボ展開について直撃してみた。
「新庄監督就任で北海道に注目が集まり、今シーズンは大きな盛り上がりを見せると期待しています。オフィシャルスポンサーとして一緒に地元北海道を盛り上げていきたいです」(広報担当者)
新庄監督とのコラボ商品の展開については「今のところ予定はございませんが、道民の皆さんに喜んでいただけるコラボを実現できたら良いなと思っています」(同担当者)とのこと。
過去には、所属選手とのコラボ商品(パンやスイーツなど)を毎年販売。今年も10月に西川遥輝、近藤健介、大田泰示、中島卓也、上沢直之の5選手合同プロデュース商品を販売し、大好評だった(※すでに終了)。ビッグボスとのコラボ商品が誕生すれば、人気爆発となるのは間違いないだろう。
◆農産物の人気アップ期待も
ファイターズの選手、球団と一緒になって「北海道農業応援プロジェクト」を展開しているのは、ホクレンだ。
選手から道内の農業生産者に向けたビデオ応援メッセージ作成や、農業生産者の投票による「BESTファイター賞」選出などの活動を通じて、農産畜産物のPRや農業への理解を深める活動を展開している。こうした活動に新監督が登場する可能性はあるのだろうか。
「どちらかというと、これまでは選手にご登場いただいてきましたので、今のところ新庄監督でという予定はないのですが、大変に影響力のある方なので、何らかの形でプロジェクトにかかわっていただけないか検討したいと思っています」(広報担当者)
新庄監督が北海道米やジャガイモ、酪農製品などのPRに絡んでいけば、生産物の人気が高まり、生産者のモチベーションも上がっていくのではないだろうか。
◆球団は早くも監督年俸を上回るイメージ効果獲得
新庄人気で盛り上がる北海道だが、果たしてビッグボスはファイターズや北海道の救世主になることができるだろうか。北海道の事情に詳しい経済ライターはこうみている。
「出だしは上々どころか想定以上。新庄監督は単年契約で年俸は1億円と報じられているが、球団はそれをはるかに上回るイメージアップ効果を早くも得られた。
今回の新庄氏の監督就任はファイターズファンだけでなく、老若男女、実に幅広い世代にインパクトを与えている。しかも北海道だけでなく、全国的な話題となっている点が大きい。ビッグボスの指導、パフォーマンスで、チームが仮に優勝はできなくてもクライマックスシリーズに進むような活躍を見せれば、さらに盛り上がっていくはず」
ちなみにファイターズは、2016年にリーグ優勝したが、それ以降の成績は「5位、3位、5位、5位、5位」と振るわず、低迷続きだ。
観客動員数は、優勝した2016年が約208万人、2017年も約209万人でソフトバンクに次いで2位だったのが、2018年、2019年は200万人割れと落ち込んだ。コロナ禍の入場制限などで激減した2020年は27万6471人(5位)、2021年は54万4818人(4位)だった。
「新庄劇場」の盛り上がりが継続するかどうかは、チームが活性化して長期低迷から脱却することできるかどうかにかかっていると言えそうだ。
◆全国の経済効果は数百億円レベルか
コロナ禍以降、北海道はコロナ感染拡大とインバウンド消失などですっかり元気がなくなっていた。最大の盛り場であるススキノは閑散としていたし、国際リゾートとなったニセコでも外国人の姿が激減した。
さらに、この秋は道東沿岸部における赤潮発生による巨額の漁業被害、そしてサケもサンマも不漁と、暗く厳しいニュースが続いていた。それだけに、「新庄劇場開幕」の衝撃は大きかった。
「ワクワク感、期待感で人々のマインドを一気に明るくしたのが最大のポイント。経済は何といってもマインドが重要なポイントになる。しかも、2023年には北広島市に建設中の新球場を含む“世界がまだ見ぬボールパーク”が開業するため、話題性が続く。
道内だけでなく日本各地から、新球場でのファイターズ戦観戦を組み入れた道内観光に訪れる人が増えるのは間違いない。コロナ次第だが、中国や台湾、タイなど北海道ファンが多いアジア諸国からのインバウンドが再び入ってくるようになれば、なおさら大きな効果が生じる。
事業を全国展開しているスポンサー企業も多く、関連効果も期待できる。ネットを含めたメディア登場の効果も合わせれば、北海道を含めた全国レベルでは数百億円レベル以上の経済効果がもたらされる可能性があるのではないか」(前出の経済ライター)
北海道の観光客数(観光入込客数=実数)は、コロナ禍の2020年度は3338万人で、前年度日36.7%減だった。外国人は「0万人」で244万人減と全滅状態だった。そんな状況が、直近はやや改善の兆しがみられる。
日本旅館協会北海道支部連合会がまとめた10月の宿泊実績(道内104施設)は、Go To政策を実施していた前年同月に比べると3割減だが、今年9月と比べると約7割増加した。
時短営業が続いていたススキノの飲食店は10月15日に約5か月半ぶりに時短要請が解除され、人出が戻りつつあるという。観光、飲食ともに長いこと厳しい状況が続いてきたが、ここへきてコロナ感染が落ち着き、ようやく少しずつ回復基調になりつつあるのだ。
それだけに、北海道経済に新庄効果が与えるインパクトは絶大だ。ファイターズの快進撃が続き、道内の観光、飲食業界が大いに沸く──。そんな日が来ることを願いたいものである。
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