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こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。
29日の金曜日が「キン肉マン」の日というのはご存じでしょーか?
金曜で29日だから「金29」=「キン肉」。単なるダジャレか……と軽く考えるかもしれないが、2021年には1月と10月の2回だけ、22年は4月と7月だけという、すごく貴重な日なのだ!
そこで本日は、『キン肉マン』のなかでも筆者イチ推しのキャラについて考察したい。
その名はステカセキング。
テリーマンや、バッファローマンや、ロビンマスクなど、存在感たっぷりの超人たちがひしめき合う『キン肉マン』世界においては、さほど目立った活躍もしなかった脇役中の脇役だ。
――だが、このステカセキングこそ、筆者がこれまでに考察してきた幾多のマンガ、アニメ、ゲーム、特撮、昔話……などなど全ジャンルのなかで、最強のキャラクターではないかと思うのだ。
ステカセキングは、ベルギー出身の21歳で、身長214cm、体重700kgの悪魔超人。
その必殺技は、ヘッドホンになった両足を対戦相手の耳に押しつけて、無理やり100万ホーンの音楽を聞かせる「悪魔のシンフォニー」だ。
これによって、相手は鼓膜と脳を破壊されてしまうという。
えー、若い読者のなかには、ここまでの文章を「ステカセって何…?」と思いながら読んできた人もいるかもしれません。
1980年代に「ステレオカセット」という録音機材が発売され、広く浸透した。当時としては「カセットなのにステレオ」というのが斬新だったのだ。
その「ステレオカセット」を略したのが「ステカセ」なのではないかと思われます、たぶん。
さて、主人公・キン肉マンはこのステカセキングと対戦する。キン肉マンのマスクには防音装備がついていたものの、10万ホーンにしか耐えられなかったので、大苦戦!
しかし、ステカセキングがキン肉マンに無理やり聞かせていたラジオが、音楽番組から落語に替わってしまう。
これを聞いて元気倍増したキン肉マンは、あっさり逆転勝ちを収めるのだった……。
この結果を受けて、悪魔超人のリーダー・バッファローマンは「ステカセキングは われら7人のなかじゃ 実力的にはいちばん最低」とコメントした。
負け方もマヌケだったけれど、どうやら最初から期待されていなかった様子である。
だが科学的に考えると、バッファローマンの認識は間違っている。
ステカセキングの「100万ホーン」こそ、空想科学の世界で最強と断言できる必殺技なのだ!
音の大きさを表す単位には「ホーン」と「デシベル」がある。
ホーンは人間の感覚をもとにしたもので、人間の耳には、音のエネルギーが同じでも、高さによって違う大きさに聞こえる。したがってホーンの値だけでは、音のエネルギーを求めることはできない。
これに対して、デシベルは「1秒間に放つエネルギー」で定義されるので、デシベルがわかれば物理的なエネルギーも求められる。
そして音の高さが1千ヘルツのとき、デシベルとホーンの数値は同じになるように設定されているので、ここではステカセキングの100万ホーンを100万デシベルに置き換えて考えよう。
デシベルという単位は「エネルギーが10倍になったときに10増える」というシステムだ。
人間が普通に会話するときの音の大きさは60デシベルで、70デシベルはその10倍、80デシベルだと100倍、90デシベルは1千倍のエネルギーということだ。
そして、デシベルの元になる「1秒間に放つエネルギー」の単位は、電力にも使われる「W(ワット)」だ。
ジェット機のエンジン音はものすごくうるさいが、音の大きさでは120デシベルで、1秒間のエネルギーでは、なんと1W。
また、人間が130デシベルの音を聞くと失神するといわれるが、これは10Wでしかない。
電気スタンドに使われるLEDライトの消費電力が20Wほどだから、音というものは、エネルギーは小さくても、人間に多大なダメージを与えるのだ。
これらを合わせて考えると、100万デシベル(=100万ホーン)とは、どれほどのエネルギーとなるのだろうか?
120デシベル=1Wからスタートして段階的に見ていくと、そのすごさがよくわかる。
まず、200デシベルは、120デシベルより80デシベル大きい。すると、1秒間のエネルギーは、なんと100000000W(1億W)になる。
では、1千デシベルは? その場合、1秒間のエネルギーは、
10000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000W。
これは0が88個もあって、日本語で表せる最大の数「無量大数」(0の数が68個)をも上回る。
1千デシベルで、このレベルなのだ。
1万デシベルになると、0が988個。10万デシベルだと、0が9988個。そして100万デシベルになってしまうと、0が9万9988個……!
筆者の『空想科学読本』などの文字数が1冊あたり10万字ほどなので、0をまともに羅列すると、1冊全部が0で埋まります。
こんなエネルギーが放たれたら、どうなってしまうのだろう?
それはもう、想像を絶するオソロシイことが起こる。
なぜなら、この宇宙が始まったビッグバンでさえ、エネルギーは、
5000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000(0が72個)ジュールだったのだ。
「ジュール」とはエネルギーの総量の単位で、「W」に「秒」をかけたものだ。
ステカセキングが100万ホーンの「悪魔のシンフォニー」を1秒奏でただけで、ビッグバンの9万9916ケタ上をいくものすごーーーーーーーいエネルギーが放たれる。
そんなことをすると、地球が消滅してしまうのは当然で、それどころか太陽系も銀河系も消えてしまって、いやいや、それどころか、いまある宇宙全体が吹き飛んでしまい、同時に100000000……(0が9万9816)個もの新たな宇宙が誕生する……!
もう何がなんだかわかりません。
でも、筆者がこれまで四半世紀にわたって空想科学の研究をしてきた限り、これを上回るキャラは現れていない。
渋い脇役ではあるが、科学的に考察すれば、ステカセキングが最強なのは確実だろう。
さあ、今日は貴重な『キン肉マン』の日。
みんなでステカセキングを称えましょー。
鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。学習塾の講師を経て、1996年、アニメや特撮映画を科学的に検証した『空想科学読本』を上梓、60万部のベストセラーとなる。99年に空想科学研究所を設立。2007年、全国の学校図書館に向けて「空想科学 図書館通信」の週1無料配信を開始し、現在も継続中。13年に『ジュニア空想科学読本』のシリーズ刊行を始めると、全国の小学校で人気となり、いま空想科学研究所には年間1万を超える質問が届く。これまでに検証したマンガやアニメ、ゲーム、昔話などは1000以上。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信している。また、明治大学理工学部の兼任講師も務める。
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